『君がいるから強くなれる』


  何もない真っ暗な海を見ていると、ひとりぼっちでひもじく船を待っていたことを思い出す。
「やせっぽちなのは、成長期の栄養が足りなかったせいだ………。」
「なに、ブツブツ言ってんだ、お前。」
いつのまにかサンジのすぐそばに、ゾロが来ていた。
サンジはちらっとそちらを見やったが、またタバコをくゆらせた。
「思い出に浸ってちゃ、悪ィーか。」

  サンジはゾロのことを、ある意味意識していた。
軟派な自分と、硬派のゾロでは、考え方が違う。
何かといえば張り合っているのだが、引き分けまでで、なかなか勝つことができない。

  背はそんなに大きく変わらないのによー。
こいつの筋肉といったら…体中、脳ミソまで筋肉なんじゃないのか。クソーッ!
気に入らねェ!

  「お前にも思い出なんて、シャレたもんがあるのか?」
そんなサンジの気持ちを知ってか知らずか、ゾロはニカッといつもの調子でからかって、隣りに座りこんだ。

  かーっ!ますます、気に入らねェ!

  「あのよ……サンジ。」
「何っ?」
ムカムカしてすごい形相で聞き返すと、ゾロは少し驚いていたが、言葉を続けた。
「俺よ………ずっと言おうかどうか迷っていたんだが………。」
心なしかゾロは照れて、頭をポリポリ掻いている。

  なんだ?今日は、ケンカ売ろうってわけじゃないのか。
その様子に、サンジは少し気抜けした。

  「………目標の他にも、欲しいものができた。」
こんなふうに静かに、二人並んで話すことなんか滅多になかったので、
真面目な表情のゾロの横顔を見ながら、サンジはタバコの火を消した。
「へえ………何?」
「お前。」
即答するゾロから、サンジは100mほど引いて、叫んだ。
「お前の冗談は、つまんないぞっ!」
「くっくっくっ………。」
ゾロは、おかしそうに笑い出した。
「ははは………!」
「………てめー!何がおかしい。」
遠くから、サンジはわめいている。
「お前さー、フツーそんな冗談で、100mも引くか?」
「うるせー!引くさ!鳥肌たったぞ!」
「まあ、聞けよ。」
ゾロはそう言いながらサンジにゆっくりと近付き、腰に手を回して引き寄せると、口付けた。
「!!!」
ゾロは名残惜しそうに唇を離すと、サンジの耳元でつぶやいた。
「………本当は、本気(マジ)。」

  奪われた………唇を………しかもヤローに………!!!

  突然の出来事に、サンジはひどくショックを受けて、耳まで赤くなっていた。
「今のはレッスン1。今度はレッスン2、な。」
「な………じゃねー!てめー、よくも………!」

  サンジの、ころころとよく変わる表情を、ゾロは優しい瞳で見つめていた。
たくましい腕は、サンジをつかまえたまま、離そうとはしない。
「いっつもそうやってつっかかって。好きなんだろ、俺のこと。」
「んーなワケ、ねーだろう!」
サンジは腕をふりほどこうと抵抗しながら、叫んだ。
「お前さ、俺が『剣士として最強を目指すと決めた時から、命なんてとうに捨ててる』
って言ったら、嫌な顔したよな。」
出会って、間もない頃の話である。

  サンジは、船をずっと待っていた海を思い出す。
朝が来て、夜が来て、朝が来て、夜が来て―――――。
命を捨てるなんて、そう簡単に言ってほしくない。

  「俺は、お前が言うなら捨てない。」
「バーカ。お前がどうなろうと、俺には関係ねェよ。」
サンジはイーッと、ケンカする時の子供のような顔をした。
ゾロの腕の中にいることが、そう居心地は悪くないことが、なんだか照れくさかった。
「なんならレッスン2、行くか?」
大人しく腕の中にいるサンジの顔を覗き込みながら、ゾロは抱きしめる腕にぎゅっと更に力を込めた。
「いっぺん死ね!」
次の瞬間、サンジの足蹴りが決まっていた。

  夜明けの海が明るく染まっていくのを眺めながら、サンジは、オールブルーもそう遠くない気がした。

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マシェリ様ありがとうございます〜!!30番というキリ番なのかどうかも
怪しいような数字で申告したのにもかかわらずこのようなすばらしい
SSが頂けるなんてvvマシェリ様に足を向けて寝ることはできません!!(感涙)
サンジが!!細腰が!!!(悦)
しかし、れ、レッスン2って・・・・ゾロったらv(鼻血)←変態


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